Dr OZくすりのよもやま話(28)

くすりの効き方の不思議さ・面白さ・・・(15

令和3年9月16日

私のよもやま話のネタは、私自身に降りかかる健康問題になっています。血圧の方はサイレントキラーなどといわれますので注意するに越したことはないのですが、今のところ落ち着いています。そうこうしているうちに、新たに、結構なかゆみを伴う虫刺されという問題が発生しました。やられてからすでに二週間近く経過しています。最もかゆいのは、左足のひざの近くと右足のふくらはぎの2か所です。右足ふくらはぎは、赤く腫れあがり、しかも“噛まれて、跡が2か所ある“という雰囲気になっています。これをみて、最初ダニではないか、と思い、いろいろと情報を探しました。

 

製薬企業が作成・公開されているページは実にいろいろな虫刺されが写真入りで掲載されていて、ちょっとぞっとしますが、的確なサイトではないかと思います。ちょっと赤くはれている部分に似ている患部の写真もありました。

 

大阪市立自然史博物館の質問コーナーに寄せられた虫刺されについての質問に対する回答に「最初ダニではないか」という私の推測に対して「え~、そうなの!?(私の推測は外れなのか~という気持ちがこもっています)」というものがありましたので、引用させていただきます。

 

「刺された跡が二箇所あるものは、ダニのしわざであるという認識が世の中に拡がっているようですね。その迷信が判断を誤らせているのでしょう。

刺し跡が二箇所並んで残る場合には、トコジラミ(ナンキンムシ)のしわざと思います。刺された時には、痛くもかゆくもなく、後でひどくかゆくなります。」

という記述です。私のダニ推測はものの見事に迷信ということになってしまいます。犯人さがしはともかく、このひどいかゆみを何とかしないと、というわけで、もう10年単位でお世話になることがなかった“かゆみ止め”をドラッグストアに行って探しました。一応、薬学部の教員なのですから、何が有効成分として配合されているのか、に注意をしつつ選びました。とはいうものの、まだその時はダニ推測にとらわれていましたので、薬が入っている箱にかかれている「赤くはれる 虫さされ・かゆみにすばやく効く」にひかれ、使ってみました。本日で、一週間になります。最初の3日くらいは今ひとつ効き目が感じられず、つまりあまりかゆくなくなりませんでした。どうしようかな、と思いつつ、もうしばらく塗布してみようと思っていましたら、効いてきました。左足のひざ付近は相当よくなりました。右足のふくらはぎはまだ少しかゆみが残っていますし、二箇所の噛み跡もまだくっきりしていますが、全体にはれがひいてきました。ようやく薬効を実感できています。

 

さて、やはり、何が入っているのか、です。7種類の成分が配合されています。抗ヒスタミン作用といえば、やっぱりコレ、という成分、ステロイド(抗炎症成分)、2種類の清涼感をもたらす成分、かゆみ止め成分、抗炎症成分、殺菌剤の7種類です。このうちのかゆみ止め成分については、私の無知ゆえに詳細な説明文書を探しました。これは書いてもよいだろうと思いますが、このかゆみ止め成分は、クロタミトンといい、クロタミトンのみをクリームとして含有する鎮痒剤、品名 オイラックスクリーム10%という薬剤が存在します。情けないのですが、初めて知りました。オイラックス®クリーム10%という鎮痒剤として、医薬品医療機器総合機構のサイト内の“医薬品添付文書”の所蔵サイトに収載されています(https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2649722N1027_3_01/)。

化学構造をみると、これがどうやって鎮痒剤になるのよ、つまり、かゆみ止めという作用が現れるのよ、という気持ちになります。取るに足らないことかな、とは思いますが、これも薬の効き目の不思議さ、だなあ、と思います。添付文書を補完する文書として、医薬品インタビューフォームというもう少し詳細が記された文書があります。上記のサイトからインタビューフォームもダウンロードすることができ、そこには、開発の経緯として、次のように書かれています。

「オイラックスはスイス、ガイギー社(現ノバルティスファーマ社)により合成されたクロタミトンを主成分とした鎮痒剤である。本剤は1948年にスペインで初めて発売され、国内では鎮痒剤として1957年に市販された。」

どうして効くんだろう、というのは正直なところですが、薬理作用の項、(1)作用部位・作用機序、の項にある文章を一部引用すると、「モルモット摘出回腸においても認むべき抗ヒスタミン作用を示さないこと、また人の皮膚感覚のうちそう痒感を抑制するが、他の皮膚感覚には影響を与えないことなどから、抗ヒスタミン作用、局所麻酔剤とは作用機序を異にすると考えられる。一般には、皮膚に軽い灼熱感を与え、温覚に対するこの刺激が競合的にそう痒感を消失させるといわれている。」とあります。

これには3つの引用文献があって、ことによると書かれている言語は英語ではないかもしれません。1951年、1961年、1969年に発表されています。これだけのことが今から半世紀以上も前に第1報が出て、それから18年も研究され、明らかにされているとはすごいな、と思います。しばらく更新が滞ってしまいましたが、ずいぶんと勉強したような気になっていますし、それだけ文章も長くなってしまいました。

 

 

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